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前橋地方裁判所桐生支部 昭和34年(ケ)31号 決定 1963年5月20日

理由

申立人商工組合中央金庫は債務者福田商事株式会社に対する債権のため福田たけ所有の別紙第一目録記載の不動産につき競売の申立をしたが、その理由は、申立外中小企業金融公庫は債務者福田商事株式会社に対し申立外山田文蔵、福田伊勢松、福田一為を連帯保証人として昭和三二年一〇月二四日金二〇〇万円を貸与し、返済期を昭和三四年九月二三日利息を年九分六厘とし、元金支払は昭和三三年二月二三日より毎月二三日限り金一〇万円宛を分割支払うこと、利息は昭和三二年一一月二三日より毎月二三日限り一月分宛支払うこと、右契約に違反したときは債権者の請求により期限の利益を失うこと及び返済遅滞の場合は日歩四銭の割合による遅延損害金を支払う旨の特約をし、右債権のため福田たけ所有の別紙第一目録記載の不動産につき抵当権を設定したが、債務者等は右元金の支払をしなかつたので、申立人は中小企業金融公庫との特約により弁済期である昭和三四年九月二三日債務者等の承諾をえて元本並びに昭和三二年一二月二四日以降の利息損害金を前債権者に代位弁済したから申立人は債務者に対し弁済を受けるために本申立をするというのである。

当裁判所は申立を理由ありと認め昭和三四年一一月六日競売手続開始決定をしたが、申立人提出の別紙第一目録不動産の登記簿謄本桐生市長の証明書二通(公図及び借家台帳の写)、鑑定人大根富二郎提出の評価書(図面を含む)、口頭弁論を開いて証人森口順四郎を訊問した結果並びに当裁判所のした釈明処分としての検証の結果によると、別紙第二目録の不動産(玄関、六畳、四畳半、三畳、二畳、炊事場、浴場等よりなつている)は元申立外森口唯八が建築所有しこれを申立外福田一為に賃貸していたが、唯八が昭和二九年一〇月死亡し、森口順四郎、ツル、量、クラ、哲夫、重子が共同相続したもので、未登記のままであるが、唯八死亡後福田一為が右不動産の上に一間二階を造らせてくれといつて同年末頃第二目録の不動産を利用しこれに接続して階下に四畳半、廊下、便所、洗面所、事務室、二階に六畳二部屋を建増し、その妻である福田たけ名義で所有権保存登記を経由したこと、森口順四郎等共同相続人は右増築に承諾を与えなかつたが結局黙認した形になつたこと、第二目録の不動産は家屋台帳上は宮田一、三七〇番地となつているが実際は一、三七四番地の一の土地の上に存在することを認めることができる。以上によれば別紙第一目録の不動産は実は独立の建物ではなく第二目録の不動産に附加して一体をなしているものと解するを相当とする。そうすると申立人が第一目録の不動産を福田たけの所有に係る独立の建物として抵当権を設定したとしてもこの抵当権は無効であるので、本件競売申立は却下すべきものであつたのであるが、競売開始決定を経た後鑑定人の評価書により不動産の独立性につき疑を生じ調査の結果右の事情が判明したのであつて、このような場合は予め知るにおいては手続の開始を妨ぐべき事実が裁判所に顕著になつたものとして、競売法にも準用のある民事訴訟法第六五三条の趣旨に則り職権をもつて決定で手続を取消すべきものと解するを相当とする。

よつて前記競売手続開始決定を取消し、申立人の本件申立を却下し、申立費用は全部申立人の負担とし主文のとおり決定する。

第一目録

桐生市宮本町字宮田一、三七四番地の一

家屋番号二六八番の三

一、木造亜鉛葺二階建居宅一棟

建坪 一四坪

外二階坪 八坪

第二目録

桐生市宮本町字宮田一三七〇番地(家屋台帳上の記載。実際は、一三七四番地の一)

家屋番号二六八番

一、木造瓦葺平家建居宅一棟

建坪 一三坪五合

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